美術館となった旧ベルギー領事館

ソウルにある近代建築は圧倒的に漢江の北にあるものが多い。今でこそ漢江の南は栄えているが、昔のソウルの中心は漢江の北にあったからだ。それで、古い建築がないから、私と江南とはあまり縁がないのだが、江南を訪ねていく理由の一つが、このソウル市立美術館の南ソウル生活美術館があるから。といってもなかなか行く機会に恵まれず、今まで2回しか行ったことがないのだが。


日本人の建築家によって設計された美しいレンガ造りの建物で、元をたどると会賢洞にあった駐韓ベルギー領事館の建物だった。それが領事館の移転によって横浜貿易会社に売却された。解放後も紆余曲折があったが、文化財に指定され、再開発によって移転されながらもその姿を保ってきた。現在はウリ銀行の所有となっており、ソウル市に無償で貸し出している状態だという。


その旧ベルギー領事館の110周年を記念して、まさにこの建物で行われている展示が、「美術館となった旧ベルギー領事館」。この建物の歴史と、それにちなんだ美術作品の展示で、「ソウルの近代建築の生き字引」といわれるアン・チャンモ教授のキュレーションで行われるとのこと。さっそく訪ねてみた。


今回の展示で期待していたことがある。それはこの建築の設計者のこと。どこの本を見ても「コダマ」としか書いていない。それで、もしかしたらこの「コダマ」さんの正体が分かるかもしれないということだった。

さて、旧ベルギー領事館は、地下鉄4号線の舎堂駅で降りてすぐのところにある。普通の韓国的な街の中にとつぜん美しい洋館が現れるので、驚く人も多い。久しぶりに訪れた旧ベルギー領事館は、やはり美しかった。

重々しい扉を開けると中央に廊下があり、その両側が展示室となっている。

最初の展示室の壁には解体して再建するまでの写真が展示されており、この建物の年表があった。

そして、概要を紹介する文章に、設計者の名前があった!


児玉琢。


(D. Godama)とあるのは、ハングルから変換した英文表記であることは間違いない。

名前の読み方は書かれていなかったが、「たく」だろうなあ。

さらに、「日本人・児玉琢が設計したといわれているが、児玉は設計士ではなく建築技師であり、建築様式は当時のベルギー国王であったレオポルド2世が好んだ新古典主義様式で建てられたため、『レオポルド2世様式』とも呼ばれた。正確な様式名は『後期古典主義建築』である」とあった。

実際、児玉氏は技師だったようだ。

でも、これを様式だけで片付けてしまうのはちょっと乱暴じゃないかなあ。

まあ、日本人が設計したものを「美しい」とは評価しにくいため、そのような方便をつかったのではないか、というのが私の推測。まあ、この美しい建物が残ってくれればそれでいいのだけれど。


部屋の真ん中には当時の資料。ほとんどがアン教授個人の所蔵だ。すごい…

その中で目を引いたのが、ベルギーが朝鮮と修好通商条約を締結して最初に領事館を置いた場所を示す貞洞の地図。

最近読んだ「ソンタクホテル」、「貞洞の各国公使館」という本に、ベルギー領事館について詳しく出ていたのだが、その本に書かれていたとおり、フランス領事館の向かいに「前比利斬領事館(前ベルギー領事館)」とある。ここは、朝鮮王朝のために多大な貢献をしたフランス産まれのドイツ人、ソンタク(孫澤)婦人のために、当時の国王である高宗が下賜した洋館なのだという。

1階は、この建物の歴史に関する展示で、2階は旧ベルギー領事館をモチーフにした美術作品を展示していた。

けっこう興味深い作品が多かったが、その中でも一番気に入ったのが、近代建築をモチーフにした作品。

旧ベルギー領事館とか江華島の聖公会温水里聖堂、徳寿宮の静観軒など、私が気に入っているソウルの近代建築ばかりをモチーフをしているのがなんだかうれしかった。

前回来た時は、それほど建物を見る時間を取れなかったけれど、今回はちょうど連れてきた娘が寝てくれたので、建物の細部を眺めることができた。それにしても、娘が大きくなってきたので、おんぶして写真を撮るのはつらい…。

階段も美しい…


展示は2016年2月21日まで。地下鉄4号線舎堂駅6番出口を出てすぐ。

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